リスベート・ツヴェルガー 絵/チャールズ・ディケンズ 作
吉田新一 訳
定価:本体2,816円(税別)
34×21cm/81ページ/オールカラー
全国学校図書館協議会選定図書
日本図書館協会選定図書
19世紀のロンドンの裏町。守銭奴で情け知らずの孤独な老人スクルージがイブの夜、次々に現れる過去・現在・未来の幽霊によって人間としてめざめていく姿が感動的に描かれています。クリスマスの精神を高らかに謳い上げた名作です。
いいえ、いまだって信じられません。スクルージは幽霊をくまなくじっと見つめて、たしかに自分の目の前にそれが立っているのを知りました。死人の冷たい目があたえるあのぞっとする感じをあじわいました。あごから頭にたたんでしばってあるハンカチ——そんなものは前には見たことがありませんでしたが——その布目がはっきりと見えました。でも、スクルージはやっぱりほんとうには信じられなくて、自分の目を疑っていました。
「よう! わたしになにか用か?」スクルージはあいかわらずかみつくように、冷ややかにいいました。
「おおありだ!」——まちがいなくマーレーの声でした。「おまえはだれだ?」「だれだった、ときいてくれ。」
「幽霊さま!」スクルージは幽霊の服にとりすがってさけびました。「聞いてください! わたしはむかしのわたしじゃなくなりました。こうしてあなたがたとお会いしたおかげで、そうなるはずだった人間にはもうなりません。もし、わたしがまったく望みのない人間でしたら、どうしてわたしにこういうものを見せられたのですか?」
そのときはじめて、幽霊の手がゆれたように見えました。
「慈悲深い幽霊さま。」スクルージは、幽霊の前で地面にひれふしながらつづけました。
「あなたのやさしいお心は、わたしのためにとりなして、わたしをあわれんでくださいました。どうか、いままでお見せくださった影は、これから心を入れかえて生きていけば、変えられるとおっしゃってください!」
やさしい手が小さくふるえました。