2025.01.22 SHARE
山崎晴太郎という方をご存じですか?
企業ブランディングを中心にアートディレクションを手がけ、デザイナー、アーティスト、経営者、文化人などのさまざまな顔を持つ方です。「情報7daysニュースキャスター」(TBS系)、「真相報道バンキシャ!」(日本テレビ系)などのコメンテーターとして知っている方も多いかもしれません。
表参道のスパイラルガーデンで開催された山崎晴太郎個展「越境するアート、横断するデザイン。」では、これまで携わったクライアントワークや自身のアート作品が多数公開されました。
中でも興味深かったのが、JR西日本の新サービス「Wesmo!」にまつわるブランディング事例。会場で行われたトークイベントには、山崎晴太郎氏をはじめ、JR西日本の担当者、フォントデザイナーの小林章氏がそれぞれの立場から、プロジェクトを巻き戻すように制作の現場を振り返るセッションが展開されました。
プロジェクトに携わった当事者が、それぞれの立場で考えたこと、新サービスに込めた思い、クリエイティブ現場での具体的なやりとりを多くの人と共有するイベントそのものが、新サービスのブランディングに大きく寄与しているなあと実感。トークイベント終盤には、その場に居合わせた観覧の皆さんも、新サービスを応援したくなるような温かい雰囲気に包まれました。この手法は、社内報のリニューアル号発行など、さまざまな広報ツールの完成発表の際にも応用できるはず!と刺激を頂きました。
展示されていた山崎晴太郎氏の著書「余白思考」は、楽しく読めて、気持ちが軽く前向きになる良本。特に社内報をはじめとする広報ツール制作を担当される方にもぜひお勧めしたい一冊です。
社内報制作におけるさまざまなシーンで、相手の思いやアイデアを引き出すことの難しさに直面することも多いでしょう。例えば、企画会議。参加したメンバーからの活発なアイデアや意見を期待したいが、なかなか思うような企画会議にならない。または、取材インタビューで、取材対象者から興味深い話を聞き出したいのに、一問一答の平凡なやりとりに終始し、うまく話が広がっていかない。
そんなときにも使える、意識したい「話し方の余白」について、著者の考えが具体的な話し方のコツと合わせて語られています。この本を読むとすぐに実践してみたいと、次の企画会議や取材が待ち遠しくなるはずです。
社内報などの広報ツールを制作するうえで、必ずと言っていいほど、現れる大きな壁が「あれもこれも大事だから全部伝えたい」問題。実際にさまざまな企業の社内報を見て、ページいっぱいにぎっしり埋められた情報に息をのみ、そっとページを閉じるなんてことも。
「せっかく取材したのだからなるべく全部載せてあげたい」「協力いただいた他部署の要望だから叶えてあげたい」「経営陣の用意したメッセージ原稿だから削るなんてもってのほか」という声は、制作現場で日常的に聞こえてきます。作り手と読み手がほぼイコールの社内報においては、仕方のない部分かもしれませんが、そこで諦めてしまっては社内報をつくる意味すら見失ってしまいます。
著者が丁寧に解説する「気配をつくるようにコミュニケーションする」という考え方は、関係者全員でまずはじめにしっかり共有したい大事なポイントだと痛感しました。伝わるためのデザインには余白が大事だということは分かっているけど、やめられない、と諦めそうになったら、この章を関係者で読み返し、立ち返ってみるのも一手かもしれません。
多くの企業の社内報を見てきて感じる、社内報制作がうまく回っている担当者の共通点は、自分で考えた企画を楽しんで実現しているという点。社内報のように、次々と締切が迫ってくる定期発行の媒体は、締切に間に合わせることが最優先となり、指示通りに卒なくこなすことに終始してしまいがちでしょう。
それだけでは、社内報制作は難しい。メンバー一人ひとりが自分で考えて動いていくためのポイントとして、「リーダーの余白」「メンバーの余白」についてこの本では語られています。社内報や広報ツールは、決して一人で作ることはできません。担当部署のメンバーはもちろん、協力部署や外部の編集者やデザイナー、ライター、カメラマンなど一人ひとりの力を最大限発揮してもらうために、この「余白」という考え方は応用できるでしょう。
ここで触れたポイント以外にも、さまざまなポイントで「余白思考」が解説されています。読んでいくうちに、どんどん気持ちが軽くなるような一冊。ぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
余白思考 アートとデザインのプロがビジネスで大事にしている「ロジカル」を超える技術
著者:山崎晴太郎